Torブラウザで防げるオンライン追跡の種類：IPアドレスや閲覧履歴はどこまで隠せる？
オンラインでの追跡に不安を感じていませんか？
インターネットを利用していると、「自分の行動が見られているのではないか」「どこからアクセスしているか知られているのではないか」と漠然とした不安を感じることがあるかもしれません。特に、訪れたウェブサイトから自分の興味に合わせた広告が表示されたりすると、ますますそのように感じる方もいらっしゃるでしょう。
匿名ブラウザであるTorブラウザは、このようなオンラインでの追跡を防ぐためのツールとして知られています。しかし、「具体的にどんな追跡を防いでくれるのか」「どれくらい匿名になれるのか」といった点は、分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、Torブラウザを使うことで、どのような種類のオンライン追跡を防ぐことができるのかを、専門的な知識がない方にも分かりやすく解説します。
Torブラウザがオンライン追跡を防ぐ基本的な仕組み
まず、Torブラウザがどのようにしてオンラインでの追跡を防ぐのか、その基本的な考え方をご説明します。
通常のインターネット通信では、あなたのパソコンやスマートフォンからアクセスしたいウェブサイトまで、データはまっすぐに送られます。このとき、あなたの「IPアドレス」というインターネット上の住所のような情報も一緒に送られるため、アクセス先のウェブサイトや途中の通信経路を見ている人には、どこからアクセスがあったのかが分かってしまいます。
Torブラウザを使うと、データは直接アクセス先に送られるのではなく、世界中に散らばる複数のコンピューター（これを「リレー」と呼びます）を経由して送られます。例えるなら、手紙を何人かの友人の間を順番に回してもらってから最終的な相手に届けるようなイメージです。
このとき、それぞれの経由地（リレー）では、次にどこにデータを渡せばよいか、そしてどこからデータを受け取ったか、という情報だけが分かります。最初にデータを出したのが誰か、最後にデータがどこに届くのか、という全体像は、途中のリレーには分からないようになっています。
このように、データを複数の経由地でバケツリレーのように転送することで、データの送り元（あなたのパソコンなど）と最終的な送り先（アクセスしたウェブサイト）の関連を分かりにくくし、匿名性を高めているのです。この仕組みは「オニオンルーティング」と呼ばれます。
Torブラウザを使うことで防げる追跡の種類
Torブラウザの基本的な仕組みを理解したところで、具体的にどのような種類のオンライン追跡を防ぐことができるのかを見ていきましょう。
1. IPアドレスによる追跡
最も基本的な追跡の一つが、IPアドレスを使ったものです。IPアドレスはインターネット上のあなたの住所のようなもので、これを知られると、あなたがどの地域からインターネットにアクセスしているか、どのインターネットサービスプロバイダ（ISP）を利用しているかなどが特定される可能性があります。
Torブラウザを使用すると、あなたの本来のIPアドレスは、Torネットワークの出口ノードという最後の経由地のIPアドレスに置き換えられます。あなたがアクセスしたウェブサイトは、あなたのIPアドレスではなく、この出口ノードのIPアドレスを見ることになります。これにより、ウェブサイト側からは、アクセスがどの出口ノードから来たかは分かりますが、あなたの本当のIPアドレスを知ることはできず、あなた個人を特定することが難しくなります。
2. IPアドレスに基づく位置情報の特定
IPアドレスは、おおよその地理的な位置情報（国、地域、場合によっては市区町村レベル）と関連付けられています。IPアドレスによる追跡を防ぐことで、同時にこのIPアドレスに基づくおおよその位置情報の特定も防ぐことができます。アクセス先のウェブサイトからは、あなたが実際とは違う場所（出口ノードがある場所）からアクセスしているように見えます。
3. インターネットサービスプロバイダ（ISP）による閲覧履歴の監視
通常、あなたがインターネット上でどのウェブサイトを閲覧したかという情報は、あなたが利用しているインターネットサービスプロバイダ（ISP）を通過します。ISPは技術的には、あなたがいつ、どのIPアドレスのウェブサイトにアクセスしたかを知ることができます。
Torブラウザを使用してアクセスする場合、あなたのISPが確認できるのは、あなたがTorネットワークへの最初の入り口（エントリーノード）に接続した、という事実だけです。その後のデータがTorネットワーク内をどのように経由し、最終的にどのウェブサイトにアクセスしたのかは、暗号化されていてISPからは分かりません。これにより、ISPにあなたの詳しい閲覧履歴を知られることを防ぐことができます。
Torブラウザだけでは防げない、または注意が必要な追跡
Torブラウザは強力な匿名化ツールですが、万能ではありません。Torブラウザを使用しても防げない追跡や、注意しないと匿名性が損なわれてしまうケースも存在します。
1. ウェブサイト内でのログインや個人情報入力による追跡
Torブラウザを使っても、あなたがウェブサイトにログインしたり、氏名やメールアドレス、住所などの個人情報を入力したりすれば、そのウェブサイトはあなたを特定できます。Torブラウザは通信経路を匿名化するツールであり、ウェブサイト上であなたが自ら身元を明かす行為は防げません。Torブラウザで匿名性を保ちたい場合は、ログインが必要なサイトや個人情報を入力するサイトでの利用は避けるか、匿名で作成したアカウントを利用するなどの工夫が必要です。
2. ウェブサイト上のトラッカーやCookieによる行動追跡
多くのウェブサイトでは、アクセスしたユーザーの行動を追跡するために、Cookie（小さな情報ファイル）や様々なトラッキング技術（アクセス解析ツールなど）を利用しています。Torブラウザは通信経路は匿名化しますが、これらのウェブサイト側の追跡技術すべてを完全に無効にするわけではありません。Tor Browserは、標準設定である程度のトラッキング対策が施されていますが、サイトによっては完全に防ぎきれない場合もあります。特に、同じTorブラウザのセッションで複数のサイトを閲覧した場合、それらのサイトが連携してあなたの行動を追跡しようとする可能性はゼロではありません。
3. ブラウザの「フィンガープリンティング」による特定
ウェブサイトは、使用しているブラウザの種類やバージョン、インストールされているフォント、画面サイズ、OSなど、あなたのパソコンの様々な情報を取得できます。これらの情報の組み合わせは、多くのユーザーの中でユニークな「指紋（フィンガープリント）」のようになり、たとえIPアドレスが変わっても、あなたを識別するために使われることがあります。Tor Browserは、多くのユーザーが同じような「指紋」になるように設計上の工夫がされていますが、完全に防ぐことは難しいとされています。アドオンの追加や設定変更によっては、かえってあなたの「指紋」をユニークにしてしまい、特定されやすくなる可能性もあります。
4. 出口ノードでの通信内容の監視リスク
Torネットワークの出口ノードは、暗号化された通信がTorネットワークから出て、目的のウェブサイトに届く直前の場所です。もし、アクセス先のウェブサイトがHTTPS（アドレスがhttps://で始まる、鍵マークが表示される安全な通信）でなくHTTP（http://で始まる安全でない通信）の場合、出口ノードの運営者はあなたの通信内容（アクセスしたページの内容など）を見ることが技術的に可能です。悪意のある出口ノードが存在する可能性も指摘されており、これがTorブラウザの重要なリスクの一つとされています。そのため、Torブラウザ利用時には、必ずHTTPS接続のサイトを選ぶことが推奨されます。
5. マルウェアやフィッシングによる情報漏洩
Torブラウザ自体にウイルスが含まれているわけではありませんが、Torネットワークを利用しているからといって、インターネット上のすべての危険から守られるわけではありません。悪意のあるウェブサイトを閲覧したり、疑わしいファイルをダウンロードしたり、フィッシング詐欺に引っかかったりすれば、パソコンがマルウェアに感染したり、個人情報を抜き取られたりするリスクは、Torブラウザを使っていても存在します。信頼できるソースからTorブラウザをダウンロードし、基本的なセキュリティ対策（ウイルス対策ソフトの利用など）を怠らないことが重要です。
まとめ：Torブラウザは匿名化の強力なツールだが、限界もある
Torブラウザは、あなたのインターネット接続のIPアドレスを隠し、ISPによる閲覧履歴の監視を防ぐなど、オンラインでの追跡に対して非常に効果的なツールです。特に、誰がどのサイトにアクセスしたかを知られたくない場合に、匿名性を高める上で役立ちます。
しかし、Torブラウザは、あなたがウェブサイト上で自ら身元を明かす行為や、巧妙なウェブサイト上の追跡技術、ブラウザのフィンガープリンティングなど、すべての種類の追跡から完全に守ってくれるわけではありません。また、HTTP接続のサイトでは出口ノードでの監視リスクも存在します。
Torブラウザを適切に利用するためには、その仕組みと同時に、どのような追跡には限界があるのかを理解しておくことが大切です。「Torブラウザを使っているから絶対に追跡されない」と過信せず、目的に合わせて利用を検討し、ログインしない、HTTPS接続を心がけるといった基本的な注意点を守ることが、匿名性をより高めるためには重要になります。